債務超過に陥っている中小企業のオーナーにとって、会社の将来に対する不安は深刻な問題です。「債務超過状態にある企業でも、M&Aを通じて会社を売却することは可能なのか?」という疑問を抱く方も多いでしょう。本記事では、その疑問に答え、債務超過企業がM&Aを通じて再生するための具体的な方法と事例を紹介します。
債務超過に陥っている中小企業のオーナーが抱える不安や焦りに共感し、彼らの気持ちに寄り添いながら、現実的な解決策を提示します。
この記事でわかること
- ・債務超過でもM&Aによる会社売却が可能な理由
- ・債務超過企業がM&Aを成功させるための具体的な対策
- ・実際にM&Aで再生を果たした中小企業の成功事例
- ・専門家を活用した早期現状把握と企業価値最大化の重要性
債務超過でもM&Aが可能な理由
企業価値の再評価と潜在的な価値
債務超過でもM&Aが可能です。
債務超過に陥っている企業でも、必ずしも全ての価値が失われたわけではありません。企業が持つブランド力、技術力、顧客基盤など、財務諸表には表れにくい無形資産が多く存在します。これらの無形資産は、企業の将来性を評価する上で非常に重要な要素です。
信用とブランド力: 長年にわたって築かれてきた信用やブランドや、顧客に対する信頼は、買い手にとって大きな価値を持ちます。たとえ財務が厳しい状況であっても、ブランドを再生させることで新たな市場を開拓できる可能性があります。
技術力: 特定の技術やノウハウを持つ企業は、その技術を活用した新製品の開発や、既存事業の強化に繋げることができます。これにより、買い手企業にとっては、債務超過企業が大きな成長の機会を提供することになるのです。
顧客基盤: 長年にわたって築かれた顧客基盤は、新しい商品やサービスを展開する際の大きなアドバンテージとなります。特に、地域密着型の中小企業では、顧客との信頼関係が強固である場合が多く、これが買い手にとっての魅力となります。
これらの無形資産が評価されることで、たとえ債務超過であっても、買い手企業にとって魅力的な投資対象となるのです。つまり、債務超過状態であっても、企業価値を再評価し、適切な戦略を立てることで、M&Aが成立する可能性が高まります。
買い手企業にとってのメリット
債務超過企業を買収することにはリスクが伴いますが、買い手企業にとっては大きなメリットも存在します。まず、債務超過企業は通常、売却価格が低く設定される傾向があります。これは、買い手にとって非常にコストパフォーマンスの高い投資機会を提供します。
低価格での買収: 債務超過企業は、財務状況の悪化により、通常よりも低価格での売却が求められます。これにより、買い手は比較的少ない投資で企業を取得でき、その後の成長に必要なリソースを確保しやすくなります。
相乗効果の創出: 買い手企業が債務超過企業を買収する際、その企業の技術や顧客基盤を活用することで、シナジー効果を生み出すことが可能です。これにより、買い手企業の既存事業が強化され、全体としての競争力が向上することが期待できます。
市場拡大の機会: 債務超過企業が持つ特定の市場や顧客基盤を活用することで、新たな市場へ進出することができます。これにより、買い手企業は市場シェアを拡大し、事業の多角化を図ることができます。
このように、債務超過企業は単なるリスクではなく、買い手企業にとっての戦略的なチャンスを提供する存在となり得るのです。
専門家の意見
M&Aにおいて、財務戦略や法的なアプローチを適切に行うためには、専門家の意見が欠かせません。公認会計士やM&Aアドバイザーは、企業価値の正確な評価や買い手との交渉を成功させるための重要なパートナーです。
財務戦略の構築: 債務超過企業の財務状況は複雑であり、専門家による詳細な分析が不可欠です。公認会計士は、企業の財務諸表を精査し、現状の課題と改善策を提示します。これにより、売却時に適切な価格設定が行われ、買い手との交渉がスムーズに進むことが期待できます。
法的支援: M&Aプロセスには、契約書の作成や合意事項の調整など、多くの法的手続きが伴います。弁護士などの法的専門家は、これらの手続きを円滑に進めるためのサポートを提供します。また、買い手との契約交渉において、売り手企業の利益を最大限に保護するためのアドバイスも行います。
信頼性の向上: M&Aプロセスにおいて、第三者である専門家の関与は、取引全体の信頼性を高めます。買い手にとって、専門家の評価に基づいた企業価値や財務状況の提示は、取引の透明性を確保し、交渉の前提となる情報の信頼性を保証します。
参考文献:日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」
参考文献:中小企業庁「中小M&Aハンドブック」
M&Aを成功させるための具体的な対策
早期の現状把握の重要性
債務超過に陥った企業がM&Aを成功させるためには、まず自社の現状を正確に把握することが重要です。現状の早期把握により、売却の可能性や条件を明確にし、適切な対策を講じる基礎が整います。
専門家を活用した株価算定と現状分析
専門家の役割: 公認会計士やM&Aアドバイザーなどの専門家を活用することで、客観的かつ詳細な株価算定や現状分析が可能になります。これにより、企業の本質的な価値を見極めることができ、売却交渉の際に有利な立場を築くことができます。
株価算定の手法: 債務超過状態での株価算定は複雑であり、通常の算定方法では企業価値が低く見積もられることがあります。したがって、現状に応じた適切な評価手法(DCF法、相続税評価、清算価値評価など)を選択することが重要です。
現状分析の具体例: 財務諸表の分析、負債の内容精査、事業の強みやリスクの特定などを通じて、企業の現状を詳細に把握します。この段階での分析結果が、買い手に対して説得力のある提示材料となります。
早期の現状把握のメリット
タイムリーな対応: 企業価値の下落を防ぎ、M&Aのタイミングを逃さないために、早期の現状把握は欠かせません。これにより、迅速な意思決定と実行が可能になります。
戦略的な準備: 株価算定や現状分析を基に、戦略的な準備(リストラ、コスト削減、新規事業の開拓など)を進めることで、買い手にとってより魅力的な企業となります。
実際の成功事例の紹介
事例1: 株式会社萬坊(佐賀県)
背景: 株式会社萬坊は、佐賀県唐津市で活魚料理店と水産物加工品の製造・販売を手掛ける企業です。しかし、過去に始めたフグ養殖事業が失敗し、多額の負債を抱えることとなり、債務超過に陥りました。このままでは、企業の存続が危ぶまれる状況でした。
M&Aの経緯: 経営改善のために様々な施策が講じられましたが、根本的な解決には至らず、最終的にM&Aを検討することとなりました。萬坊は、自社のブランド力と地域における存在価値を高く評価し、それを活かせる買い手を探しました。その結果、JR九州が買い手企業として浮上し、2019年に第三者割当増資を通じて同社が子会社化されました。
成功要因: このM&Aが成功した要因としては、以下の点が挙げられます。
- ブランド力の活用: 萬坊が持つ「いかしゅうまい」というブランド商品は、全国的に知名度がありました。これを活用することで、JR九州は新たな販路を開拓し、萬坊のブランド価値をさらに高めることができました。
- 販路拡大: JR九州の流通網を活用することで、萬坊の商品が新たな市場に進出しました。これにより、売上が増加し、財務状況の改善が加速しました。
- 設備投資: 増資によって調達された資金は、老朽化した工場設備の改修に充てられました。これにより、生産性が向上し、さらに経営基盤が強化されました。
結果: 萬坊は、債務超過状態から脱却し、地域経済への貢献を続ける企業として再生しました。これは、早期の現状把握と適切なパートナー選びが成功を導いた典型的な例です。
事例2: 株式会社リース東京(東京都)
背景: 株式会社リース東京は、病院向けのテレビや備品のリースを行う企業でしたが、業界の変化に対応しきれず、経営が悪化。多額の負債を抱え、債務超過状態に陥りました。当時の経営者は、自力での再建を諦め、M&Aによる再生を模索しました。
M&Aの経緯: 買い手探しは難航しましたが、同業の日本エンドレスが興味を示し、交渉が始まりました。日本エンドレスはリース東京の持つ顧客基盤やノウハウに着目し、これを自社事業の強化に繋げることを目的に買収を決定しました。
成功要因: リース東京のM&A成功には、以下の要因が挙げられます。
- 財務改善の徹底: 日本エンドレスは、買収後すぐにリース東京の財務状況を改善するための施策を実施しました。不要なコストの削減や効率的な資金運用により、短期間での黒字化を実現しました。
- 営業力の強化: 日本エンドレスからの営業ノウハウの導入により、リース東京は新たな市場を開拓し、売上を増加させました。また、既存顧客との関係強化も進められました。
- 従業員のモチベーション向上: 買収後、従業員の待遇改善や教育プログラムの導入により、モチベーションが大幅に向上しました。これが生産性の向上と顧客満足度の向上に寄与しました。
結果: リース東京は、買収後2年で黒字転換し、その後も安定した経営を続けています。債務超過状態から再生を果たしたこの事例は、適切な財務改善と人材活用が成功を支えた好例です。
参考文献:中小企業庁「第2節 M&Aを通じた経営資源の有効活用」事例より
まとめ
債務超過に陥った企業でも、適切な対策を講じれば、M&Aを通じて会社売却が可能です。これまで紹介した事例からもわかるように、早期の現状把握と専門家の活用が成功の鍵となります。今こそ、具体的な行動を起こし、未来を切り開く一歩を踏み出しましょう。専門家への相談やM&A仲介会社への依頼を通じて、あなたの会社に最適な売却戦略を見つけることができます。
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2024年8月20日